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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)942号 判決

控訴人 国

訴訟代理人 板井俊雄 外四名

被控訴人 北進漁業株式会社

主文

原判決中被控訴人等勝訴の部分を取消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人等の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とするとの判決を求め、被控訴人等訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、控訴人訴訟代理人において次のとおり附加陳述したほかは、いずれも原判決事実摘示記載のとおりであるから、これをここに引用する。ただし原判決中、本件漁業権の免許及びこれに対する訴願の年が昭和二十八年となつているのはいずれも昭和二十七年の誤記であるから訂正する。

控訴人訴訟代理人の附加した陳述。

「一、本件漁場の追加決定は、法の目的理念に反するものである。

現行漁業法は、漁業における旧法時の個人本位の無秩序、非民主的な水面の利用を否定し、その計画的総合的利用の方式を樹立して漁業生産力の発展と漁業の民主化をはかることを主眼として制定されたものであつて、そのために、その障害となる旧来の漁業権を正当な補償を行つて(漁業法施行法第九条)、全部消滅させたのである。そして、現行漁業法の下においては、先ず都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきいた上で、漁業種類、漁場の位置及び区域、漁業時期その他免許の内容たるべき事項、申請期間等(いわゆる漁場計画)を定めた上で、これを公示して(漁業法第十一条)、広く一般漁業者に対して免許申請の機会を与えることとし、また、免許申請をした漁業者のうち、いずれの漁業者に免許を与えるかは優先順位によつて決定することとし(同法第十五条)、優先順位の決定の基準を詳細に規定しているのである(同法第十六条)。すなわち法は、水面の総合的利用、漁業生産力の発展並びに漁業の民主化の見地から、漁場計画の行政庁による事前決定、その公示による一般漁業者に対する均等な免許申請の機会の付与、免許基準の法定等の措置を講じ、旧法下における免許申請者による自由な着業計画の決定、行政庁の裁量による免許等を排除したものである。

ところで原判決は『新しい漁場計画を立て、これを漁業者らに割当ててみたところ、旧来の漁業者のうちに、新しい漁漁業権が得られない者があつた場合において、既に立案された場計画を再検討し、新しい漁場を追加して、これをその者に割当て、もつて旧来の漁業者の漁業者としての立場を擁護することは、その新漁場を追加した漁場計画が、前記の漁業法の目的理念に反しない限りは、敢て違法と言えないであろうし、又、同法第十一条第二項の規定からしても、漁場計画の追加変更は、法の予想しているところである。』と述べている。漁場計画の追加変更が一般にいつて、法の予想するものであることは、控訴人もまた従来主張したところであるが、問題は、原判決のいうように旧来の漁業者であつて、現行法の基準に則り優先順位者に該当せずとして免許すべきでないとされた者、すなわち、特定の漁業者を擁護するために、新たに漁場を追加することが、法の目的理念に反しないかどうかである。すでに述べたように現行法は免許申請者が多数ある場合、そのうち何人に免許を与えるべきかについて詳細な基準を定め、必ずこれに従つて免許の許否を決定すべきことを要求しているのであつて、この基準に照して免許すべきでないとされた特定の漁業者を擁護するために新たに漁場計画を設定することは、むしろ法の暗黙に禁止するところであるというべきである。けだし原判決のいう如く、これを反対に解するときは、行政庁の慾意介入の途を招き、免許の客観的基準である優先順位に関する法の規定を死文と化しめて、漁業制度改革の意義を没却する結果になることは明らかであるからである。もつとも、現行法の下においても、特定の漁業者の個人的事情を全く無視してよいわけではないことは勿論であるが、それはあくまでも優先順位の決定に当つて考慮されるべきものであり、漁場計画決定の段階で考慮すべき事項ではないのである。

ひるがえつて、本件漁場計画の追加決定がなされるに至つた事情は、網さけ定一五号乃至一七号定置漁業権の優先順位者が結局被控訴人遠藤熊吉と決定されて、被控訴人北進漁業株式会社が右漁業権の免許を受けられなければ、他に漁業権免許を受けられる場所もなく、その存続が危くなる状態にあつたので、その申出に対し関係行政庁が種々考慮をめぐらした結果であるから、結局本件漁場計画の追加は、網さけ定一五号乃至一七号定置漁業権について、単独免許を得られなかつた被控訴人北進漁業株式会社を擁護するためになされたものであることが明らかである。そうだとすれば、本件漁場計画の追加決定はすでに述べた法の目的理念に違反してなされたものといわざるを得ないのである。

二、本件免許は、一般の漁業者の免許申請の機会を奪つてなされたものである。

原判決は、本件漁業権の免許申請期間が事実決定の告示の日である昭和二十七年八月九日から同年同月十一日迄の三日間であつた事実のみからして直ちに一般漁業者の免許申請の機会を奪つたものとはいえないと述べているが、漁業者が一個の自然人である場合には、自己の意思のみにより、また、法人であつても漁業権の免許申請をすることが通常の業務執行として代表機関の権限に委ねられているような場合には、その代表機関の意思のみにより、免許申請をすることができるから、たとえ免許申請期間が三日であつても、特段の事情のない限り、免許申請をすることができるであろうけれども、漁業協同組合のように漁業権の設定得喪変更等について総会の特別決議を経なければならないものとされている(水産業協同組合法第四十八条一項第九号、第五十条第四号)法人が免許申請をしようとする場合には、総会の招集に少くとも十四日間の期間を必要とするのであるから(同法第四十一条)、本件のように申請期間が三日では、免許申請をすることは事実上不能である(なお、漁業生産組合については、同法第八十六条第二項参照)。

また、かりにこの点を考慮した上で本件免許申請期間が三日以上の相当の期間に定められていたとした場合でも、被控訴人両名及び訴外奥谷悠一外二名の他に前述漁業協同組合やその他の者は申請をしなかつたかもしれないが、被控訴人両名及び訴外奥谷悠一外二名以外に更に申請者が出現しなかつたかどうかは、にわかに断定し難いのであつて、この点についていずれに判断したところで、結局推定の域を出ないのである。しかもこのような推定の結果、事実上免許申請者が皆無であると予想されるか否か、またその数がどの位置に達すると予想されるかとは関係なく、一般漁業者に対し均等に免許申請の機会を与えることを法はまさに要請しているのであるから、これに反する見解に立つて本件免許申請期間が短期間であつたために申請の機会を失つた漁業者はいなかつたとすることは全く独自な判断をなすものであつて到底承服することができない。」

理由

被控訴人が共同で昭和二十七年八月二十五日北海道知事から小清さけ定第三五号定置漁業権(以下これを本件漁業権という。)の免許を受けたこと、右免許処分に対し、該免許の競願者であつた訴外奥谷悠一から同年十月二十五日農林大臣に訴願をなし、右訴願に基き昭和二十九年六月九日農林大臣が右免許処分を取消す旨の裁決をなしたこと及びその裁決の理由は被控訴人等主張のとおりであつたことは、いずれも当事者間に争がない。よつて被控訴人等が右裁定の違法な理由として指摘する諸点につき検討する。

(イ)  被控訴人等は、漁業権の免許については、漁業法において同法の定める一定の者に免許することを要する旨規定し、ただ出願者が同法第十三条各号の一に該当する場合にのみ免許してはならないと定めているのであるから、免許を受ける適格者である被控訴人等に対してなされた本件免許を農林大臣が漠然とした裁量により取消したのは違法であると主張する。

漁業法は免許を受くべき者の適格性及び優先順位につき詳細な規定を設けており、その限度において行政庁に裁量の余地がないことは明らかであるけれども、本件裁決は、これに附してある理由により明らかなように、本件漁業権の漁場の新規な設定そのものが許されないものとし、従つて、免許を受くべき者の資格や優先順位を論ずるまでもなく、何人に対しても免許をなすべきものでないという理由で、被控訴人等に対する免許を取消したものであり、単なる裁量により控訴人等だけに対する免許を拒否しようとしたものではないから、この点に関する被控訴人等の主張は採用できない。

(ロ)  被控訴人等は、本件裁決には、漁業権の免許と事前に決定すべき漁場計画とを混同し、漁場計画のかしを理由として免許処分を取消した違法があると主張する。

漁業法第十条ないし第十二条によれば、漁業権免許の手続として、知事は、先ず海区漁業調整委員会の意見をきき、漁業の種類、漁場の位置及び区域、免許申請期間その他の事項を定め(以下漁場計画の決定という。)、これを公示することを要し、この公示された内容に従つて漁業免許の申請があつたときは、知事は、これに対する海区漁業調整委員会の意見をきいた上で漁業権の免許処分をなすべきものとされている。右一連の手続のうち漁場計画の決定、公示が一の行政行為であることはもちろんであるけれども、右はそれ自体としては権利義務その他法律関件の変動を生ずるものではないから、独立して訴訟の対衆となすことはできず、又現行法はこれに対して独立に訴願、訴訟の提起を許しその完結確定を待つて手続の次の段階に移らせるというような制度にもなつていない。従つてこれを以て次に続く免許処分から切離されこれとは無関係な独立の処分であるということはできない。すなわち漁場計画の決定に違法、不当があるときは、これに従つてなされた漁業権の免許処分は、その前提手続が違法又は不当であるという理由でこれまた違法又は不当のものとなり、これに対する行政上の不服申立の対衆となるものといわなければならない。従つて、かような免許処分に対し訴願の申立があつたときは、裁決庁は、前提手続たる漁場計画の決定が違法又は不当であつたということを理由として免許処分を取消すことができるものであり、漁場計画の決定と漁業権免許とが無関係な別個独立の処分であるとし、前者のかしを理由として後者の取消をなすことは許されないと主張する被控訴人等の見解は、採用できない。

(ハ)  被控訴人等は、更に本件漁場計画の決定はなんらかのかしもない適法なものであるから、これを違法であるとして免許処分を取消した原裁決は違法であると主張する。

当事者間に争のない本件訴願裁決の理由は、漁業制度の改革に伴い新漁業法に従う漁業計画が一旦定められて後更に新たな漁場を設定することができるのは、旧漁場計画が不適当であつて、新漁場の設定が必要であるという積極的な理由がある場合に限るものであり、本件のように、特定人のため競願関係を調整し、その者の漁業改革前の経営規模を維持させるために新漁場を設定するようなことは、右新漁場を設定できる積極的理由がある場合に該当せず、漁業法の適用を誤つた違法なるものであり、これに従つてなされた知事の免許処分も適法であるというのである。

一旦海区漁業調整委員会の意見をきき漁場計画が定められ、その公示があつた後でも、更に新たな漁場を追加し新たな漁場計画を決定することが不可能でないことは、漁業法第十一条第二項においても予想するところであるけれども、そもそも当初の漁場計画にせよその後に追加された新たな漁場計画にせよ、漁業法の目的、すなわち、水面を総合的に利用しもつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図るという目的に背馳することのできないことはもちろんである。本件小清さけ定第三五号定置漁業権の漁場計画が、その前に決定された漁場計画を実質的に変更しこれに新たな漁場を追加するものであることは、当事者間に争のない本件漁業権免許に至る経過に徴し明らかなところ、もし右新たな漁場計画の決定が控訴人の主張するように、本来優先順位にないため他の漁場における免許申請において競願者に敗れ漁業権を取得する見込のなくなつた被控訴会社を救済するため、新漁場を設定してその漁場権を同会社に取得させようという、専ら被控訴会社の利益を図るだけの目的で決定されたものであるとするならば、それは漁業法の定める漁業民主化のための優先順位の制度を無意味にするものであつて、漁業法第一条の目的に背馳し違法であるといわなければならない。よつて果して本件新たな漁場計画の決定がそのような違法な目的によるものであるか否かを検討するに、成立に争のない甲第三号証の一、二同第五号証の二、同第七号証同第八号証、乙第二号証の一ないし三の各一、二、同第三号証ないし第十号証、同第十一、十二号証の各一、二、同第十三、十四号証、同第十五号証の一、二、原本の存在及び成立に争のない甲第五号証の一、三、同第六号証並びに原審証人吉田義助、同鈴木貞雄、同岩佐春雄の各証言を総合すれば、被控訴会社は昭和二十四年設立せられた株式会社で、設立以来網走市及び常呂町地先でさけ定置網漁業に従事し、被控訴人遠藤熊吉は昭和二十三年以降さけ定置網漁業に従事しており、漁業改革後の最初の漁業権については、被控訴会社は常呂町地先及び網走市西北部地先での漁業権の免許を申請したが、常呂地先海面の分は右会社より優先順位に在る漁業生産組合の競願があつたため免許を受けることができず、網走市地先海面のものすなわち網第一五号ないし第一七号漁業権については、被控訴人遠藤熊吉との競願となり、海区漁業調整委員会では、被控訴人遠藤熊吉が地元漁民であること、被控訴会社は漁業法第十六条第三項に定める昭和二十三年九月一日以前十年間の年度内において当該漁業の経験がないことその他諸般の事情を論議参酌した上、結局被控訴人遠藤熊吉を優先させる意見の方が圧倒的に多く、委員会の意見としては同被控訴人が優先順位に在るものと一旦は決定したこと、かくて右委員会の意見のとおり決定するにおいては、被控訴会社は結局その存立に必要な漁業権を取得することができなくなるのであるが、ただ被控訴会社は昭和二十四年設立され会社としては漁業法に定める昭和二十三年九月一日以前十年間の間に漁業の経験がないことになるけれども、その社長藤野隆三は昭和二十二年以来個人で訴外日魯漁業株式会社を共同して同市地先において漁業を営んでおり、その共同事業を株式組織に改めたのが被控訴会社であつて、日魯漁業株式会社がその職員名義で実質上被控訴会社の株式の半数を保有しており、この共同事業時代の経験をも被控訴会社の経験と見るときは被控訴会社も被控訴人遠藤熊吉と同様法定期間内に当該漁業の経験を有していたこととなる関係があつたので、北海道水産部長より右の関係を指摘し、両者の間の優劣はにわかに断定できないものであるという意見を附して委員会の再考を求めたので、右委員会においても、再考の上、その海区における漁業の実績を有する被控訴会社が漁業権を失うことは漁業生産力の発展を図る所以ではないとの考え方に立つて、被控訴人両名の共に存立できる方法を検討した結果、必ずしも北海道水産部長の意に沿うものではなかつたけれども網走市東方止別川左岸の保護区域に接して既に定められていた定置漁業権の沖合に五十間の魚道を隔てて本件定置漁業権小清定第三五号を新設し、これとさきに被控訴人遠藤熊吉が優先順位に在るものとされた網走市西北方の網定第一五号ないし第一七号漁業権とをともに被控訴人両名の共同経営とさせることによつて問題を解決しようとしてその旨の意見を知事に述べ、知事はこれに従つて右新漁場計画を決定公示したところ、被控訴人両名も、右意見に従い、右新漁業権につき共同で免許申請をなし、同時にさきの縄定第一五号ないし第一七号定置漁業権についても被控訴人両名に対する共同免許に同意する旨上申し、海区漁業調整委員会も改めて右各漁業権はいずれも被控訴人両名が共同で優先順位に在る旨の意見を述べたので、知事はこれらの漁業権の全部につき被控訴人両名を共同漁業権者として免許処分をなしたこと、なおこの新漁場は当初の漁場計画を立案する際看過遺脱し、又はその後に新たに発見されたため当初の計画に補充することを要した漁場ではなく、前記のように、被控訴会社に漁業権を取得させるため地元漁民の反対を排し、既存の漁場に近接して設定されたものであり、これにより附近の漁場にも影響を及ぼすものであること等の事実を認めることができる。このように本件漁業権の設定は被控訴会社の利益を図るため設定されたものであるところ、前示甲第三号証の一、乙第二号証の一ないし三の各一、二同第四号証、同第七号証、同第十二号証の一、二を総合すれば、被控訴会社は、地元漁民の集団ではなく、登記簿上本社を網走市に置いてあるので形式上は地元に住所が在ることにはなるけれども、その株主の大部分は東京都内外及び函館市在住者で占められ、総株式の九十パーセント以上がこれらの者に属し、地元民の保有する株式数は総株式の八パーセントにも満たず、その従業員も主として道外漁民を使用する会社であることが認められ、しかも同会社は、同一海区内の他の漁場における漁業権免許申請において、漁業法の定める優先順位を欠くものとして免許を受ける可能性のなくなつたものであることも、また、前認定のとおりである。漁業法による漁業改革は、従前個々の漁業権を中心として漁場秩序が成立し、その内部における漁業権の強大な支配性のためかえつて漁業従事者特に多数漁民による漁業生産力の伸長が阻害されていた弊害を除去し、新たに民主化された漁業秩序を確立するため、従前の漁業権は正当な補償を行つてこれを消滅せしめ(漁業法附則第二項、漁業法施行法第一条、第九条)、民主的な海区漁業調整委員会を創設しその意見をきいて全く新たな構想の下に漁場計画を樹立しようとしたものであつて、沿岸漁業においては地元漁民の優位を保護し、旧来の封建性を排除しようとする意図が漁業法の規定の随所に見られるのであり、そのためには従前漁業を行つていた漁業経営者中漁業法の定める優先順位において劣位に在るため新漁業法の下で漁業権免許から脱落する者の生ずることは当然予想されるところであつて、その者の従前の漁業に対する依存度が高かつたためこれによりその生活さえも脅かされるような場合があつたとしても、その救済は別途に考慮されるべき問題であり、その者を救済するため、既に樹てられた漁場計画を緩和変更し、その者を新たな漁場に収容して新制度の中に温存するようなことは、新漁業法の目的に背馳するものである。本件の場合においても被控訴会社が主として外部資本と外部労働者とにより漁場を経営しようとするものであること前認定のとおりである以上、これに漁業権を取得させる目的を以て、既に一旦法廷の手続を経て決定された漁場計画に実質的変更を加え、かつ公聴会における地元漁民の反対を排除してまで新しい漁場計画を決定するということは、漁業法第一条にいう漁業の民主化に背馳し、漁業改革の精神に逆行するものということができる。北海道オホーツク海東部海岸の漁場のような道外からの出稼移民を多く使用しなければならない地方で地元漁民の間にも漁業の開発に必要な充分の資本の発達を認め難いような場所(そのことは前示甲第三号証の一、二、乙第二号証の一ないし三の各一、二、同第十二号証の二により認められる。)においては、当該海区においてそれまでに漁業の実績とその能力資材とを有していた者が新制度の発足によつて漁業権を得られず経済的に破綻し漁業経営から脱落することが、ある程度漁業生産力に悪影響を及ぼすことは否定できないけれども、この点を考慮してもなお本件新漁場の設定が漁業法の精神に反するという前示判断を動かすに足りない。従つて右新たな漁業計画の決定を以て漁業法の適用を誤つた違法なものとし、これに基く知事の漁業権免許処分を不適法としで取消した農林大臣の本件裁決は、被控訴人主張の他の論点につき判断するまでもなく、適法なものというべきである。

従つて右裁決が違法であることを前提とし、農林大臣の故意過失による右違法な裁決により損害を被つたことを主張してその賠償を求める被控訴人等の本件請求は、その前提において採るべきでないことが明らかであり、原判決中その一部を認容した部分は失当である。よつて原判決中右失当な部分を取消し、被控訴人等の請求を棄却すべきものとし、民事訴訟法第九十六条第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判所 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

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